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​創設者より

お母さんに抱かれた赤ちゃんが、隣の席に座っています。もう7~8か月にもなるのでしょうか。好奇心いっぱいの目を見開いて、こちらを見つめています。思わず見つめ返すと、照れたように顔をそむけ、しばらくするとまたじっと見つめてきます。ありふれた光景といえばそれまでですが、こんな場面に出会うと、私はいつも一種の感動を覚えます。

「遊ぶ子どもの声聞けば、我が身さえこそゆるがるれ」という中世歌謡の一節も、こうした感動を歌ったものでしょう。誰しも、昔は、幼な子だったのです。子どもは、心の故郷なのです。裏返していえば、子どもは世界の未来でもあります。幼な子の瞳の輝きがいつまでも消えないよう、祈らずにはいられません。

ところが、最近になって、この輝きがだんだん薄れてきているように見えるのは本当に気がかりです。この10年ほどのあいだに幼児虐待の件数は、約10倍に膨れ上がりました。これは、高度成長期に不登校児が倍々ゲームのように増えていったのとよく似ています。日本の子育てもたしかに一つの曲り角にさしかかっているのでしょう。そのため、虐待や障害児などのケースを除いても、乳幼児期にさまざまな問題が広がっているように感じます。毎日オンブをしないと落ち着かない子、自慰行為の止まらない子、見境なく噛みつく子、などなど・・・。問題を抱えたまま小学校に入学すれば、いわゆる「小1プロブレム」が爆発するのは無理もありません。それらを考えるにつけ、乳幼児期こそ人間性の基礎を培う大切な時期だということが痛感されるのです。

「治療より予防」の原則が大切なのは、心の問題でも変わりありません。乳幼児期の保育・教育が、今ほど重要な時代はかつてなかったのではないでしょうか。一人でも多くの子育てに携わる方々と手を取り合って、子どもたちの瞳がいつまでも輝きつづけるよう、問題を考えていきたいと願っています。保育所保育士、幼稚園教諭、児童館保育士、小学校教諭ならびに広く一般の保護者の皆さま、私たちの講習会にご参加ください。ごいっしょに育児不安、養育不全、児童虐待等の問題を考え、解決への途を求めていきましょう。私たちも、私たちが伝えうる限りの知識や体験をお話ししてまいります。

藤永 保  (お茶の水女子大学名誉教授,2016年1月21日逝去)     

(2005年1月15日のNPO法人設立時にお書きになられたものです)

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